CYDAS BLOG

2020年5月11日

Culture

歴史的パンデミックの中、イタリアの現状を伝える・土田康彦さんの特別研修

みなさん、こんにちは。
コロナウイルスの影響で、リモートワーク・テレワークが推奨されて久しいですが、いかがお過ごしでしょうか?
「外出自粛要請」が続いている東京ですが、スーパーやコンビニへの買い物、近隣への散歩、オフィスへの出勤など「街から人がみんな消えてしまう」といった状況にはないように思います。
今回は新卒研修の特別ゲストとして、現在厳しい外出制限が敷かれているイタリアのヴェネチアに在住の土田康彦さんをお招きして、2日間に渡るZoom研修を行いました。

▼土田康彦さんについては、こちらの記事をご覧ください。

研修は、新入社員だけでなく、以前から土田さんと親交のあった代表・松田も含め、ほとんどのサイダスメンバーが参加しました。
日本のテレビやラジオではあまり報道されない、他国のリアル。最初に感染が拡大した中国・武漢に次いで広い範囲で感染が確認されているイタリアの現状に、新入社員、並びにサイダスのメンバーは何を思うのでしょうか。

1日目:「イタリア・ヴェネチアの今に至った経緯を考える」


1日目は、実際に土田さんにヴェネチアの街を散策しながら、実況をしていただきました。

土田:
それでは、コロナによって大きな被害を受けているイタリアのミラノとヴェネチアの様子を中継しながらお伝えしたいと思います。
2月中旬ごろからイタリア国内で徐々に流行の兆しを見せていましたが、ジョージアルマーニががファッションショーを中止したことで、「本当に危ないぞ」という危機感が高まり始めました。現在は厳しい外出制限が敷かれています。

ヴェネチアの大運河沿いには、大きな旗や高級ホテルなどが並んでいます。すぐそこには「グリッティ・パルス」という世界有数の一流ホテルがあってこの時間だと普段はテラスで朝食をしている人が居るんですが、今は営業を停止していて誰もいません。
ヴェネチアの運河は、物資の輸送や運搬だけでなく、通勤する人たちの道路としても使われています。いつもならラッシュアワーの時間帯ですが、今は船も動いていないですし、人っこひとりいない。
船はヴェネチアの観光資源でもあるので、何ヶ月も止まっている状態が続くと、これから国がどう保証していくかが重要になってくると思われます。
いつもなら、町の中心であるサンマルコ広場はイベントなどがなくても、大体1万人くらいは観光客がいて、この広場をめがけてたくさんの人が歩いているんですが、今は誰もいないですね。

周りのレストランやカフェ、バーもここ1ヶ月ずっと閉まっている状態です。飲食店だけでなく、靴屋やオペラハウスなんかも閉まってる。「コンティーニギャラリー」という有名な現代アートのギャラリーもありますが、当然閉まってますね。営業を停止していても、固定費などは必ずかかってしまいますが、このあたりとなると、かなり高額になるところもあって。
閉店する店も出始めています。

お店でいうと、高級ブティック街も今は全部営業を停止。シャネルやモンクレールは、商品が全く置いてない状態ですね。商品が置いていない理由は様々に考えられるんですが、例えば、その日暮らしをしている人たちが高額のものを狙って夜間に押し寄せてくる可能性があるからなんです。南の方では、スーパーを襲撃したというニュースもありました。

イタリア国内では先週だけでも800万人の人が解雇されたんです。これは大阪の人口と同じくらいですね。


土田:
現在、教会の改装中なんですが、ヴェネチアでは改装工事を行う際、周囲に大きな幕を張って、そこに広告を出すんです。その広告費収入が、ヴェネチアの古い建物の修復の大きな収入源だったんですが、今は広告を出しても見る人がいないと言うことで、真っ白な幕になっています。
刑務所では暴動もありました。感染の拡大を抑えるため、家族との「面会禁止」が禁止になっていて、それに対する暴動抗議です。逃げ出した囚人の中には、まだ捕まっていない人達もいるようです。
ヴェネチアは、去年の11月にヴェネチア至上最大と言われている大洪水が起きたんですよ。国が何億というお金を投じてようやく復興できた矢先に、今回のコロナウイルス。ヴェネチアの人からすればもう、踏んだり蹴ったりという感じです。

特にヴェネチアやミラノ等の観光地は、イタリア全土を支える収入源なので、これは国家的な財政破綻も近いかもしれません。医療崩壊はとっくに起こっていて、医療従事者でさえも、2週間以上同じマスクを熱湯でゆがいで殺菌しながら使っているそうです。
日常の食料調達に関しては、それぞれ外出許可証に最も近いスーパーの住所を記載して申請します。許可が出ても、家族の誰か1人までです。スーパでは、2m以上の間隔をとらねば
いけなかったり、マスクの着用をしていないと指導が入るようになっています。

それぞれの倫理観に委ねられた外出自粛要請といったレベルではない、強制力のある行動制限がなされている。それぐらい緊迫した状況に陥っているんです。


ヴェネチアと言えば、たくさんの船と、石造りの建物の間を人々がひしめくように通行する…
そんな賑やかな印象がありましたが、土田さんがこの日、映し出してくれた街の景色は、人の気配が全くなく、まさに「ゴーストタウン」とも言える状況。
つい先日には、船舶の運航が少なくなり水質が改善されたことで、ヴェネチアの運河をクラゲが優雅に泳ぐ、何とも不思議な映像が話題となりましたね。未来系SF映画の1シーンのようにも思えるような光景ですが、土田さんが見せてくれた今のヴェネチアの状況が現実であることを、物語っていると思います。

日本にいると想像もつかないヴェネチアの現状。参加しているサイダスメンバーも息を飲むように、土田さんのお話を聞いていました。

その後もヴェネチアの閑散とした街を練り歩き、案内をしていただきましたが、なんとここで突然のアクシデントが。
土田さんはこの研修を行うため、事前に内務省から許可を得ていたにも関わらず、現地の警察に逮捕される事態が発生!


あまりの驚きにサイダス一同、衝撃が走りました。幸い、罰金を支払うか、警察の管轄内で数日謹慎となるかを選択できるようで、この日は罰金を支払うことで大事には至らなかったようですが・・・
一刻も早く、コロナウイルスの終息を待つばかりですが、今回の土田さんが伝えてくれたヴェネチアの現状は、コロナ対策への意識や危機感をより一層高めるものだったのではないでしょうか。

2日目:アーティストである土田さんが考える「アイデアの構築・具現化のプロセス」


前日のヴェネチアの状況を考える時間とは打って変わり、2日目はヴェネチアン・ガラスや絵画を創出するアーティストである土田さんが考える「アイデアを具現化するまでのプロセス」を教えていただきました。


土田:
僕の場合、制作にあたって「何のために作るのか」という大義を作品やシリーズ一つひとつに持つようにしていて、これを「コンセプトビルディング」と呼んでいます。
「コンセプトビルディング」の第一段階として大事なのがひらめきです。そしてそれを文字化・文章化するんですね。その文章を元に絵を描いて、2Dにする。そして2Dになった絵を元に、ガラスで造形して3D(立体)にしていく、という工程です。
ひらめきは、サンマルコ広場を散歩している時、お風呂に入ってる時、寝る前のウトウトしている時、いつ生まれるか分からないので、常にノートを持ち歩くようにしています。
以前は、ひらめいたものをすぐ紙にスケッチしていたんですが、スケッチしていく間にだんだんそのひらめきが薄れて遠のいていく。あれほど鮮明に見えていたデザインが、スケッチしていく間に霧がかかっていって、力めば力むほど、真っ白になってしまう。当時はその中でも「大体こんな感じなんだろうな・・・」と描いてはいたんですけど、そこで自分が妥協していることに気づきました。

僕は、ものづくりの人間には2タイプ居ると思っています。一つはひらめきを頭の中で画像で見るタイプ。もう一つは、僕みたいに映像で見るタイプ。僕の場合は、完全に完成形の作品がギャラリーに飾られていて、ライティングもしてある状態で、観衆がそれを見ている。そして僕は、その観衆の後ろくらいから180度回転しながら、その完成形を見ているような映像をひらめくタイプです。作品の立体感や影も、そのひらめきの中で完結しています。
ただ、それをいっきに絵に描き落とすことは難しいです。絵は2Dだけど、ガラスは立体なので、造形としては立体感が大切なんですね。だから、ひらめいた時にどんなことを考えていたとか、どういうことを思っていたか、を文章にする癖をつけたんです。文章の長さはものによって様々ですが、その文章がカチッと完成した時に、作品のコンセプトが掴める。忘れてしまいそうだった映像が、ふわっと蘇ってくることに気付いたんです。今から15年前くらいですかね。
「僕はこうやってものづくりをするべきなんだ」と気付きました。ひらめきをすぐ描くんじゃなくて、言語化する。言語化したあとに、2D、3Dと進む。この工程が大事だと僕は思ってます。

代表・松田との共通の友人であるGLAYのテルさんが描かれたたアートも飾ってありました。


ガラスでアートを作る際のプロセスも教えていただきました。

土田:
人間は、朝起きて寝るまでの間に9000回の選択を迫られていると言われています。朝起きて歯を磨くか、それともヒゲを剃るか、といった感じですね。これが、ものづくりの人間になると15000回にものぼると言われています。日々、生活の中で何気ないチョイスをしているんです。いいものを作ろうとする時、1分間に何回ものチョイスを迫られるんです。
より良いアイデアと正しいチョイスのためには、日常の中で、自分の感覚を測れるバロメーターが必要だと思っています。僕は15歳の頃にロサンゼルス・オリンピックの開会式を見た時、ものすごい衝撃を受けたんですね。それ以来、僕の中で4年に一度のオリンピックの開会式が、自分の感受性を測るバロメーターになっています。
ものを作る上で、感受性は全ての根幹と言えるほど大切なもの。今でもオリンピックの開会式を見て、どれだけ感動して、鳥肌がたって、泣けるか。これが、僕の中で「もう少し作家を続けていけるな」と思えるバロメーターになっています。


様々なモチーフ・コンセプトから作り出されたガラスの作品は、ひらめきが生まれた時から長い道のりと工程を経て、形成されたものだったんですね。生まれたアイデアとインスピレーションを瞬く間に形にしていくのかと思いきや、長い時間と独自のプロセスによって緻密に作り上げられた世界観があるのだと実感しました。

日常で見つける感受性のバロメーター「CMプレゼンテーション」

2日目前半は土田さんの制作スタイルや「コンセプトビルディング」やひらめきのアウトプットについてお聞きしました。後半は自身の感受性を測るバロメーターのお話から、TVやSNSなどでよく目にするCMからどんなことを感じ、受け取るか、を話し合いました。

土田さんは、靴メーカー「スペルガ」のイタリアで放映されたCMを紹介。イタリアならではの創造性と飛躍的なストーリー、そして最後に視聴者がドキッとするような強いメッセージを残す印象的なCMです。

 

 
土田:
ものを売ろうとしてるのに、わざと自分の市場を半分にしているような、強烈なメッセージが最後にでてくる。これが大人や大学生をターゲットにしたCMなら分かるけど、小学校5〜6年生・中学生を相手にしてる市場のCMです。もちろん映像のスピード感・音楽性もありますが、このメッセージに僕は感動しました。非常にギリギリのところを攻めてるし、売ろうとしている人の覚悟がある。まあまあ好きくらいなら買ってくれなくてもいい、本当に愛してる人がうちのお客さんなんだ!ってところに、アーティスト性を感じるなと思います。なかなか日本では見る機会がないと思うけど(笑)


土田さんに続き、新入社員メンバーも自分が良いと思ったCM、気になったCMをプレゼンテーション。それぞれの感性で選び出されたCMは誰もが見た事ある定番のCMや、意外性のあるCM、沖縄で放映されているものをプレゼンテーションしたメンバーもいました。

研修を終えて

今回の土田さんの研修は、フルリモートでの新人研修というイレギュラーの中でも、さらに稀な体験であったと思います。
遠く離れた国の現状を現地にいる方を通して間近で見ること、現地の方の言葉を直接聞ける機会は、とても貴重な時間だったのではないでしょうか。
今回は、新入社員として研修を受けたメンバー2人に、その後の心境の変化を伺いました。

當山:
土田さんが見せてくれたイタリアの現状とお話を聞いて、日本の自粛宣言について少し視点が変わりました。今までは、他の国に比べて、なんとなく対応が甘いような気がしていたのですが、日本人の真面目さだったり、規律を守る気持ちだったり、そういった国民性を信じているからこそ「外出禁止」と言う対策には至っていないのかな、という視点が生まれました。同時に、自然と日本人としての誇りを実感できたような気がします。行動としても、これまで以上に外出の機会を減らすなど、少しずつですが変化を感じています。

佐藤:
研修を受ける前はどこかで、自分や周囲の人が感染しなければ、まあ・・・という風に思っている部分もありました。外出自粛要請が出てるから家に居るけれど、やっぱり早く友達と遊びにいきたいな、なんて気持ちもあったと思います。でも、研修後はとにかくテレビで外出している人がいることを報道しているのを見ると「早く!帰って!家に帰って!!」と言う気持ちになりましたし、今、全世界でどれくらいの人がコロナに感染してしまっているのか?ワクチンはいつ頃一般普及されるのか?など、自分の周りだけでなく、広い範囲で今の現状を考えるようになりました。その後の行動としても、毎日体温を測って体調管理に気を使ったり、買い物を最小限にしたり、少しずつ変わっていると思います。

これまでとは違う新たな視点を持ったり、自分や自分の周囲だけの狭い範囲から、地域や国などの大きな範囲で物事を考えるようになったり、この研修がきっかけで変わったことが多くあるようです。行動の変化も既に現れているとは、さすが吸収が早い!
まだまだコロナウイルスの影響はあるかと思いますが、今回のような貴重な体験を活かし、新たな視点や行動で乗り切っていきましょう。
今回、特別研修としてZoomにてお越しいただいた土田さん、2日間に渡り、本当にありがとうございました!

2020年5月11日

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